『対行政の企業法務戦略』(中央経済社、2007年)
 この本の執筆の意図です。

行政関連法務戦略の重要性           
今日、企業経営者にとって、法務戦略は極めて重要なテーマである。
法的な詰めを誤ると、企業の浮沈に関わる。そして、その領域としては、
もちろん、民事法が重要であり、その関連の論考は無数である。しかし、
今日、企業活動は、蜘蛛の巣のような、行政規制に喘ぎながら行われて
いるので、企業の法務戦略としても、行政法、対行政関連のものも重要
であることを指摘したい。

 まず、行政規制は複雑であるから、その規制をしっかり勉強しておく
ことが必要である。法を知ることは、わが社に大きな利益をもたらすこ
とも少なくない。他面、法に違反して、重大な損害を被ることも少なく
ない。最近の例に限っても、三菱地所が、土壌汚染を隠してマンション
を販売して、宅建業法違反で取り調べられ、起訴こそされなかったもの
の、検察審査会に起訴の申立てがなされ、賠償金を支払わされた。
橋梁メーカーが独禁法違反で刑事告発され、道路公団にも捜査の手が伸
び、三井物産が、ディーゼル車規制に対する排ガス浄化装置のデータを
捏造して販売していた事件で、元社員ら3名が逮捕された。

    そこで、わが社が違反しないように常に社内全般に法令コンプライアンス
体制を構  築しておかなければならない。そのためには、行政法規を熟知
することが大切である  。

 次に、これまで行われていた規制を信頼していると、方針が変更され
るために不測の不利益を被ることもある。そこで、行政規制については、
それが信頼するに値するのか否かを常に吟味することが肝要である。
その例として、第1回は情報公開について述べる。

 行政規制には不合理なものが少なくない。従来はそれでも、ご無理ご
もっともと従ってきたのが普通と思われるが、訴訟までは起こさなくても、
論争して、その是正を求めることも可能な時代である。そこで、企業法務
としては、行政に対抗できる理論武装をすることが重要なのである。

 さらに、日本では大企業同士で訴訟を起こすことはまれで、まして、
中央官庁相手に訴訟を起こすことは、これまではまずなかったが、最近は、
行政相手の大訴訟が増えている。たとえば、銀行界が、東京都の外形標準
課税について訴訟を提起し、ソフトバンクが、携帯の電波割当をめぐって
総務大臣相手に行政訴訟を提起し、解任された道路公団総裁が、国土交通
大臣相手に訴訟を起こし、森ビルが、いわゆるPFI法に基づく衆議院
議員会館の入札について訴訟を提起した。容器包装リサイクルの費用負担
が重いと、ライフコーポレーションが行政訴訟を起こす動きがある。

 そして、2005年から行政事件訴訟法が改正され、行政訴訟を起こす
ことは多少容易になった。ただ、もともと、訴訟手続自体は、重要では
あるが、学ぶのにそんなに困難はない。行政法に通じない弁護士なら、
出訴期間といった、イロハを間違うことがあるが、行政法を学んだ弁護士
に頼めば、その点ではもともと間違うことも少なかったと思われる。
しかし、肝心の実体行政法は、複雑で、難しい。訴訟で裁判所をも説得
できる法戦略が必要になる。

2、企業の側から見た行政法戦略

 行政法は、公共性が阻害されないように、行政の手を通じて社会を
コントロールする法システムである。そこで、行政法研究者としては、
問題があるときは、行政はどのような法的手段を活用すべきか、また、
そのために法律をどのように解釈できるかといった(いわばお上の立場の
)発想になりがちである。しかし、逆に、行政の規制を受ける民間事業者
等としても、その事業の展開に当たって、わが社の事業が行政規制に妨害
されることなく円滑に行えるように、訴えられないように、処分されない
ように、法令コンプライアンスの視点から物を見ることも大事である。私
は、これまで行政法を研究してきたが、このたび弁護士登録もしたので、
このように事業者の立場からも物を見ることとした。

法と経済学とリスクマネジメントの視点

ここで書きたいことがもう一つある。それは、法と経済学の視点とリスクマネジメントの視点である。私は、行政法学を専攻しているが、定期借家権制度の創設などに関わり、民事執行法、独禁法の改正なども提案したことがある。そこでは、特に、法と経済学の視点が入っている。また、法律問題においては、100点の名回答などないもので、実務においては、結局は、不十分な情報の中で、どうすれば、怪我が少なく、大きな利益を得られるかを、多面的に考察して、詰めていくことが大切だと思う。そこで、この連載では、民事法についても、そのような視点のもの入れる予定である。